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アカコの備忘録。


by sarutasensei
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もうなんの借りもありません。

もうなんの借りもありません。_f0091834_20535331.gif●渡辺清『砕かれた神-ある復員兵の手記』(岩波現代文庫) 

 福間良明の『「戦争体験」の戦後史』がおもしろかったので。
 1944年、著者の乗っていた戦艦武蔵が沈没。2300人を超える乗組員の半数が戦死したという。
 『砕かれた神』は、復員後の渡辺が綴った1945年9月から46年4月までの日記。戦争責任を回避した天皇を激烈に批判しつつ、「欺された」自分自身の責任が、ぎりぎりの深みで考察されている。

 日記の最後は、渡辺が天皇に宛てた次のような手紙で結ばれている。
 私の海軍生活は四年三ヶ月と二十九日ですが、そのあいだ私は軍人勅諭の精神を体し、忠実に兵士の本分を全うしてきました。戦場でもアナタのために一心に戦ってきたつもりです。それだけに降伏後のアナタには絶望しました。アナタの何もかもが信じられなくなりました。そこでアナタの兵士だったこれまでのつながりを経ちきるために、服役中アナタから受けた金品をお返ししたいと思います。(中略)
 たとえ相手が誰であっても、他人からの贈りものを金で見積もる失礼は重々承知のうえで、これについてはあえて一〇〇円を計算にくわえました。
 以上が私がアナタの海軍に服役中、アナタから受けた金品のすべてです。総額四、二八一円五〇銭になりますので、端数を切りあげて四、二八二円をここにお返しいたします。お受け取りください。

 私は、これでアナタにはもう何の借りもありません。(pp.329-336)

by sarutasensei | 2009-06-04 21:21 | 読んだ本