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アカコの備忘録。


by sarutasensei
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「嘘つき」たちの言い伝え。

「嘘つき」たちの言い伝え。_f0091834_2221658.jpg●高祖岩三郎『新しいアナキズムの系譜学』(河出書房新社)

※久しぶりに付箋紙だらけになった本。たとえばこんなとこがとりわけ印象的だった。
 支配者の言説に置いては、被支配者は常に「二重舌」で「嘘つき」であると考えられてきた。それは当たり前のことである。W・E・B・デュ・ボイス(一八六八~一九六三)は、他国で奴隷状態におかれたアフリカ系民衆の一つの身体に宿る「二重意識」を指摘した。彼らのおかれている状況においては、まず支配者の意識で世界を見ることを強いられている。しかし同時に、自分たち同胞のコミュニティーにおいて共有されてきた歴史があり未来への希望がある。これは被支配状態にあるあらゆる民衆の生き様あるいは存在様態なのである。だから彼らは皆「本質的に嘘つき」である。すでに述べたように、ジェイムズ・スコットはこれを「公の言い伝え」と「隠された言い伝え」と言い直した。人々は「公の言い伝え」とともに労働し日常生活を送りながらも、同時に「隠された言い伝え」において、彼ら自身の「革命伝説」「英雄伝」「未来の夢」、そして支配者への「批判」「皮肉」「嫌悪」を共有している。それは彼らの自律性の一部として「連帯」を司っている。だが折々この「隠された思考」が、水流が堰を切るかのように公の場に浮上する。嘘つきが「正直者」に転身する。それが「情動の戦略」における「否」であり「拒絶」であり、「許容から包囲への転換」つまり「蜂起の瞬間」である。実際には暴力的な手段が使われなくとも、支配者と権力にとって、これは「違法」「非日常」つまり「例外状況」としてしか現れようがない。この時、権力は、法に訴えて「隠された言い伝え」による世界像の実現を一挙に犯罪化する。(pp.121-122)

by sarutasensei | 2009-04-26 22:42 | 読んだ本